国会議員の出席率について


国会議員白書には「国会議員 出席率」と検索し辿りつく方が多いようです。ネットで検索しても、国会議員の出席の記録等の現状に関するまとまった説明や、筆者から見て適切な議論はないようですから、ここで解説しておこうと思います。(2020/5/19)

菅原 琢

「国会議員の出席率」

日本には「国会議員の出席率」という統計は存在しません。それはなぜか、ではどうすればよいのか、解説してみます。

前提として、日本の国会には、国会議員が出席する大小さまざまな会議があります。しかし、各国会議員がどの会議に出席したのか、各国会議員がどの会議に出席しなければならないのかを正確に知ることはできません。つまり、出席率の分子と分母ともに正確に知ることができません。

国会の多くの会議には議事録が存在し、公開もされています。しかし、その議事録の多くは出席者のみ記され、欠席者あるいはその時点のメンバーを知ることが難しいことが多く、中には出席者すら記されていない場合もあります。これが「国会議員の出席率」を計算することができない基本的な理由です。

衆参両院の本会議出席率の現状

もっとも、「国会議員の出席率」が実際に問題となるのは全ての会議についてではなく、衆議院議員もしくは参議院議員の「本会議の出席率」であることが多いようです。巨大な扇形の議場で総理大臣が演説し、野党党首が代表質問を行う、テレビで時々見るあれが本会議です。

議決を行い、院の意思を示すという意味で、それぞれの院で最も重要な会議がこの本会議です。議決を行うには各院の3分の1の議員の出席が必要で、法案の可決には出席議員の過半数の賛成が必要であるなど、議員の出席は制度上重要な要素となっています。最も重要な本会議では議員の出席が記録され公示されるべきと考えるのは当然と思います。

実際、参議院の本会議については、一部の例外を除き会議録に出席議員が記載されています(例:第201回国会参議院会議録第5号(pdf)の4ページ目以降)。この参議院本会議の会議録での出席者の記載は、第1回国会第7号の会議録(参議院規則が議決された1947年6月28日の会議)から続いています。在職期間に注意しながら会議録を追うことで、参議院では各議員の本会議出席率を計算することが可能です。

一方、衆議院の本会議の会議録には出席議員の記載はありません。したがって衆議院議員の本会議出席率は算出することができません。衆議院の本会議では、首班指名選挙など記名式投票を行うごく一部の議決の際に投票者(≒出席者)がわかる程度です。

ご参考までに、筆者が行った参議院本会議出席率の分析が掲載された文献を紹介します。
 山内由梨佳、菅原琢「本会議」『参議院の研究 第2巻』(木鐸社)
 菅原琢「データで政治を可視化する」『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)
外部リンク:amazon.co.jp
委員会出席の実際

本会議の出席者が記録、公開されていない衆議院でも、委員会など他の会議の会議録には出席者が記載されているのが普通です。このデータを用いて、各議員の「委員会の出席率」なる指標を作成することは可能と言えば可能です。衆議院の会議のうち本会議は8%弱を占めるに過ぎず、委員会とその関連会議(小委員会、公聴会など)は92%弱(2020年4月現在。当サイトのデータより)を占めますから、より多くの活動を「出席率」で把握できそうに思えます。

ただし、委員会の委員は頻繁に交代するため、出席率をお手軽に作ることも、それに単純な意味を見出すこともできません。委員の交代は、文字通り委員の身分を他の議員と代わる場合もあれば、その委員が会議を欠席するために一時的、一定期間、他の議員が代わりに出席する場合もあります。その委員会で発言したい同僚議員に譲ってあげることもあります。このとき、出席率算出のための分母はどのような定義でどのように集計すればよいでしょうか。

たとえば、その議員が委員であったときに開催された会議の数を分母とすれば、その議員が出席すべき会議のうちどれだけ出席したかという意味での出席率をもとめることはできます。しかしこの場合、仮に欠席を繰り返す“サボり魔”の議員がいたとしても、欠席の際に委員の交代を行い続けていれば、委員であったときに開催された委員会には全て出席して出席率は100%ということになりえます。自民党のような交代要員の多い大政党の中堅以上の議員は、頻繁に「欠席」してもこのような計算方法での出席“率”は高いままということになるでしょう。

一応、委員の交代の理由を考慮して分母の集計範囲を変えるという方法も考えられます。委員の交代は会議録に記載されますが、交代の理由、背景をひとつひとつ探ることは難しく、現実的ではありません。最初に公示された委員をその委員会の本来の委員とみなし、所定の会期での会議開催数を分母として計算するやり方もあります。しかし、他の公務のためや質問の権利を譲るような場合も欠席扱いとして計算したものが、みなさんが欲しい数字でしょうか?

「出席率」で国会を論じる意味

そもそも、委員会が開催される回数は委員会によって大きく異なります。たとえば、常任委員会のひとつである懲罰委員会は滅多に開催されません。ここには各会派の大ベテランの議員が所属する傾向がありますが、たった1回の会議の出欠で作られる出席率100%や0%という数字でその議員の評価が決まるわけではないことは明らかです。このように極端でなくとも、委員会は多忙さや重要さで大きな差があり各議員の活動にも幅があります。したがって、委員会に限らず出席率という数字だけを見て議員の活動を端的に把握することはできません。

もちろん、議員の出席が議決の要となっているのに、衆議院の本会議の出席議員が記録、公開されていないのは、全くおかしなことであると筆者も思います。しかし、衆議院議員の本会議出席率が明らかになったとしても、それほど価値はないとも理解できます。たとえば、無欠勤の会社員の業績がぱっとしないことも、全出席の学生が単位を取れないこともあるように、出席は働きや評点に直結しません。本会議に出席する議員のほとんどは、演説や代表質問を聞き、政党・会派の方針に従って賛否を示すだけですから、議員の出席と実績の関係はより無関係に近くなるでしょう。

「国会議員 出席率」で検索して当サイトに辿りついたみなさんの多くは、おそらく国会議員を評価するための(蔑むための)指標として出席率をお求めなのだと思います。しかし、出席率でわかることはほんの一部でしかなく、これだけを殊更に取り上げることは何らかの誤解を増幅させる点から適切でないでしょう。むしろ、国会という制度や議員の評価をその程度に捉えているという意味で、論者の評価を定めてしまうものです。

国会議員白書の意義

もっとも、国会議員の活動を評価すると言ってもその判断材料は非常に乏しいのが実情でした。このサイトはそのような現状を変え、議員の業績を簡単に把握し評価できるようになることを目指し、作成しているものです。より詳細な狙いや案内は国会議員白書についてにありますが、場当たり的、ゴシップ的に伝えられる「出席率」のようなデータに振り回されないよう、当サイトでさまざまなデータや情報を見つけていただければと思います。

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